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企業インタビュー

2023.01.17

アパレル製品を扱う「POLO BCS」が吉野の⼭を守り続ける理由

文・写真:都甲ユウタ

奈良県東吉野村は吉野川の上流地域に位置し、吉野林業の地として栄えてきました。また、ニホンオオカミが最後に捕獲された場所としても知られています。そのオオカミの名を冠した「POLOの森 おおかみ舎」は、高見川に流れ込む支流、平野川に沿うように建てられた、見た目もユニークな工房です。

POLO BCSの工房「POLOの森 おおかみ舎」。

そこを拠点として、広大な森林の管理・整備をおこなう「POLO BCS森林部」はアパレル事業が主体である「POLO BCS」の中にある部署の一つです。アパレルブランドならではの視点を取り入れた商品の開発や、自動車メーカーとタッグを組んでの2トントラックの販売など、その事業は多岐に渡ります。今回は「POLO BCS森林部」の部長である山中 正(やまなか ただし)さんに、「POLO BCS」ならではの林業についてのリアルなお話しを伺いました。

インタビュー:山中 正(POLO BCS 森林部)

アパレル会社が営む林業と、アパレル会社ならではの特徴

――POLO BCSはどのような会社なのでしょうか?
アパレル事業が主体であり、我々が林業を行う森林部や、「POLO」等のライセンス管理をしています。

――最初からPOLO BCSの森林事業はあったのでしょうか?
いえ、山そのものは明治初期から、グループ会社や関連会社が所有していましたが、多くは手付かずのままでした。それらを統合して引き継ぐ形で、2009年に森林部がスタートしました。

――山中さんがPOLO BCSで林業をすることになった経緯を教えてください。
私の兄とPOLO BCSの現社長が小・中学校の同級生だったんです。弟である私の近況を二人で話す機会があったみたいで。私はその頃、転職をして大阪から東吉野村に移り、村の森林組合に勤めていました。「うちの弟、大阪から吉野の山に木こり(樹木を伐採すること)をしに行ってしもてなぁ」そんな話を聞いた会長(当時の社長)から「うちの社有林がちょうど東吉野にあるから、世話をしてほしい」ということで、私にその打診がありました。それがきっかけですね。一人でちょっとずつPOLOの山を綺麗にしていると、毎月会長が見に来るんです。「あぁ、綺麗になったね」と。そうしているうちに、一つの山が綺麗になり、林業を始めることに。それが森林部の立ち上げに繋がっていきました。

――アパレル会社が林業に特化した部署を立ち上げることは珍しいように感じます。どんな思いがあったのでしょうか?
会長はもう亡くなったのですが、ものすごく山が好きだったんですね。また、会長は小さい頃に植林をした経験があり、暑い中草刈りをして木を育てるということが、いかに大変かを知っていたので、山を放っておくことができなかったんです。採算度外視でも、まずは木を大きく育ててあげたい。また企業としても、当時世界的に森林保護に向かう機運がありました。その流れに乗るという意義もあったと思います。

工房から車で1分ほどのPOLO BCSが所有している山。

――他の事業体との違いやPOLO BCSならではの特徴があれば教えてください。
2020年に「POLOの森 おおかみ舎」での事業がスタートしました。通常、真っ直ぐな良い木は市場へ。それ以外はバイオマス発電の原料として使われますが、先人たちの育てた木が過剰にバイオマス施設に運ばれる現状に違和感がありました。曲がった木、いわゆる劣勢木でも、このおおかみ舎の工房で加工し、さまざまな商品に生まれ変わっていけるんです。自分たちで木の状態を判断して、どんな製品になるかを想定しながら、柔軟で無駄のない造材(伐り倒した木を目的に応じた長さで切り分ける)に拘れるのも、自社林から生産・製造・販売を行っている、POLO BCSならではのことです。

日々、木製品の製造を行なっている工房。

――木製品のデザインがとても洗練さていてオシャレですね。
デザインは、POLO WOODというカテゴリでアパレル事業部が手がけています。自分たちだけで作るとどうしても野暮ったくなりますよね(笑)。アパレルと林業の部署があって連携できる会社ならではの強みですね。

POLO WOODとして、今期から販売される新作の木製品。

焼印も自分達で行う。

工房の前には無人販売所があり、訪れた方がいつでも購入できる。

柔軟なサポート体制とさまざまな業務内容

――職場の雰囲気はいかがでしょう?
「For The Good Life(どうせやるなら楽しく仕事しよう)」というのが、会社の方針としてあるんです。昔は怒鳴ったり厳しいことが当たり前の世界でしたが、今の時代はもう違いますよね。上司・部下関係なく、みんな積極的に意見を出し合いながら笑顔で仕事ができていると思います。

部下の辻本さんと製作する木製品について楽しく話している様子。

――女性や未経験の方でも活躍できる場はありますか?
現在いる社員の年代層は20代が2人、30代が1人、40代が1人と50代が1人。みんな男でしたが、今年の4月から来てくれている辻本は、森林部で唯一の女性です。前職が同じく林業で、キャリア自体は5年あり、未経験ではないので、もう普通に安心して作業を任せていますね。未経験者は「緑の雇用制度」で行っている研修を受けてもらい、必要最低限の技術と知識を学びながら働いてもらっています。

2022年4月からPOLO BCSに入社した辻本さん。
現場仕事や木製品製造など様々な業務ができるので、体力的に自信がない女性でも安心して働ける環境だと語る。

――東吉野村で働くにあたって、生活面での補助などはありますか?
まず、移住は絶対ではありません。ただでさえ、仕事ではずっと山の中に入るじゃないですか。やっぱり世間離れしていると思いますよ。普段の生活は便利な都会でもいいんじゃないかなと感じます。5人の社員のほとんどが村外に住んでいますし、住宅手当てもあります。冬になったらスタッドレスタイヤが必要ですから、タイヤ交換に一部補助が出ます。また、男女ともに育休制度を積極的に取得することができます。

――どのような体制や役割で働いているのでしょうか?
私がシフトを組んで管理しています。現場は2人作業になるようにして、あとは工房での制作や他の業務を行っています。同じ仕事をずっとやるということが無いので、新人社員でもできる仕事をしてもらえます。また土日休みなので、プライベートのスケジュールも組みやすい職場だと思います。

――森林部の業務内容を教えてください。
山での業務としては、山に道をつける作業道作設、その道を使っての間伐やその搬出。工房では、薪作りや製材、木工品の制作、ヒノキのくずからアロマオイルの抽出や蒸留など、多岐に渡ります。

サンプルとして作られた木製品の数々。

山中さん手作りの蒸留機。

製材機を使って、伐採した木をカットする。

所有している山にある木の太さを測っている様子。

――現場や工房で大変だと感じることはありますか?
そうですね。一通りの作業、全てが大変です。何をしてもやはり命に関わってきます。奈良県は斜面が急ですから、足元が悪い中で何百キロという木を伐る。風が吹けば倒れる方向が変わるかもしれないので、危険予知に関してはしっかりと伝えるように意識しています。

求める人材とこれからの展望

――どのような人がこの仕事に向いていると思いますか?
自然が好きということでしょうか。登山好きが林業に向くわけでもありませんが、山の中にいることが苦痛な人は絶対にできないと思います。

――一緒に働きたい人はどんな人でしょうか?
のめり込むくらい、仕事に没頭してくれる人ですね。一緒に働いて楽しいですし、たくさんある業務をこなす上での能率も上がります。

――現在の林業の抱える課題やそれに対する想いや考えはありますか?
今、全国の林業事業体で、木材搬出のために必要な高床・低速ギアのトラックの製造が中止され、死活問題になっています。そこで日野自動車の協力のもと、新型トラックを開発しました。今後の目標は、「低コスト木材搬出機械」としてこのトラックの購入補助を認めてもらい、例えば1人親方さんでも購入しやすいように行政に働きかけていきたいですね。

山中さんが開発に携わった、林業用ダンプ-日野デュトロ「吉野EDITION」。

――今後、POLO BCSを通して取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
アパレルも含め、森との調和、広くはSDGsの視点も組み合わせて、新しい事業をやっていきたいです。現在、アロマ関係の商品を安定供給できるようになり、アパレルの販売店やサイトに並んでいます。今後は子ども向けの木製品の開発なんかも構想しています。私たちの山が吸収しているCO2の量が年間654.5トンあり、そこから生み出す酸素量は年間654.5トン(約3,700人分)にもなります。今後はPOLO BCSの山を増やしていき、年間で生み出す酸素量1,000トンを目標にしようと頑張っています。実際に放置されていた山を買い取るなど、委託整備をすることも増えています。

――森林部としての今後のビジョンや目標はありますか?
あの山もこの山も、自分が植えて大きくした訳ではなく、はるか昔から引き継いできて、ここまで木が大きくなってきた。山が混んできたら間伐する、という一端を担わせていただいたに過ぎません。だからこそ私たちの代で終わらせないよう、人工林は最後の最後まで人の手をかけて育てていかないとダメなんです。

――求職者に向けて一言メッセージをください。
林業って自分が手入れした山を何年先でもずっと見れるんです。下草が生えて動物が入ってきて綺麗な山になる。気分が落ち込んだとき、パッと見に来たらどんどん綺麗に育っていく山に会える。自分の仕事の成果をいつまでも見られるので、非常にやりがいのある仕事だなと常々感じます。

――取材に同行してくださった、POLO BCS森林部の辻本奏美さんからも一言お願いします。
林業に興味があれば、まず体験することが大切です。気になっている会社の仕事や人の雰囲気に直に触れ、判断することが一番だと思います。そうすることで、いざ入社して「思っていたのと違う」といったお互いのミスマッチを防げると思うんです。また、一次産業のような自然相手の仕事をしていたら、生きる力がつきますね。災害の多い日本だからこそ、そういう仕事は大切だと感じています。


POLO BCS森林部の作る木製品や、木を育てることへの想い、林業界の死活問題解決への実行力など、企業の持っている社会貢献の理念が根底に流れているように感じました。ただそれを、会社としてではなく、自分の関心事として捉え、取り組む山中さんの姿勢は「どうせやるなら楽しく」を体現されているんだと感じました。たった1人で始まったPOLO BCSの森林事業は、コツコツと実績を重ね、若い林業従事者たちと共に着実にこれからも進んでいきます。

Profile

企業名:POLO BCS 株式会社
所在地:奈良県吉野郡東吉野村平野1315-1
電話番号:0746-44-0999
URL:https://www.polo.co.jp/pages/about-polo

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