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企業インタビュー

2022.03.25

造林会社代表に聞く、今求める人材と次世代へつなげたい林業への想い

文:三上由香利
写真:山下陸

現在、奈良県内の多くの林業会社が次世代の担い手を探しています。ではどのような人材が求められるのか。林業に関わる人たちの言葉から、林業の唯一無二の魅力だけでなく、仕事をするうえでの苦労や課題感など、リアルな林業の姿をお伝えします。

今回ご紹介するのは、奈良県十津川村で林業を営む株式会社十津川造林代表の東伸彦さん。奈良県の最南端に位置し、村としては日本一の広さを誇る、十津川村。面積の約96%が森林で、そのうち杉・檜の人工林が50%を占めており、江戸時代から木材を産出し、林業で栄えてきました。

山々に囲まれた十津川村の風景

山々に囲まれた十津川村の風景

そんな十津川村で、株式会社十津川造林の代表取締役として「人と山にやさしい林業」に取り組んでいる東さん。林業に携わる父の背中を見て育ち、大変さは身にしみているけれども、林業は「飽きない」仕事だと話してくれました。林業に馴染みがない方も、東さんの言葉からどんな仕事なのか、どんな苦労があるのかなどを知り、すこしでも興味を寄せてみてください。

インタビュー:東伸彦(株式会社十津川造林 代表)

植林から伐採、搬出までを一貫して行う

――まず初めに、東さんが林業に関わるようになった経緯を教えてください。

物心ついた頃から山に入り、仕事をする父の側で遊ぶことが日常でした。だから必然的に、高校を出たあとは家業を継ぐものやと思っていましたね。正式に父のあとを継いだのは、2016年に法人化したときです。

――主にどのような事業を行っているのでしょうか?

奈良県・三重県・和歌山県を中心に、造林業全般のほか作業道の開設や修繕、木材搬出などを手がけています。「林業」と聞くと木を伐採するイメージが強いと思いますが、植林や造林といった木を育てるということも大切な仕事なんです。

山から木を伐って搬出して、また新たに木を植え、育てる。全部できるっていうのは、うちの会社の一つの強みですね。それを別々の業者がやってしまうと、次の木が育つ土壌を考えずに地ごしらえをしたり、木を伐りすぎることもある。長い目で木の成長を考えながら仕事をすることを大事にしています。

――ホームページには「次世代につなげる森づくり」と書かれていますが、株式会社十津川造林として大切にしていることを教えていただけますか。

一番は、次の世代、その次の世代へ山を、森を残していけるような仕事ができたらと思っています。特に紀伊半島は山の斜面が急で、崩れやすいところも多い。だからこそ、山を壊さないような林業をしなければならない。作業道を作るときでも、崩壊しないような道を作るとか。

――次の世代につなげていくにあたり、取り組まれていることはありますか?

林業に関しては、やはりヨーロッパが進んでいて。新型コロナウィルス感染症が流行する前は、ほぼ毎年、ドイツ、スイス、北欧などヨーロッパの林業機械の展示に足を運んでいました。2週間ほど、スイスの林業学校で学んだこともあります。林業の分野でも技術や機械は進化していくので、出来る限り新しい情報は仕入れていこうと考えています。

そうすると営業面で、武器になることがあるんですよ。例えば、武将が戦をするときに、刀しか持ってない部隊ではなく、刀と鉄砲を持っている部隊に頼むように、チェーンソーで頑張っているところよりも、新しい機械や技術を持っているところに仕事は集まってくるんじゃないかな。新しい機械や技術に関することは、自分で足を運び、チェックするようにしています。今では大きいものから小さいものまで20台ぐらいの機械がありますが、働いている人間より多いですね(笑)。

所有する高性能林業機械の一部(株式会社十津川造林提供)

所有する高性能林業機械の一部(株式会社十津川造林提供)

所有する高性能林業機械の一部(株式会社十津川造林提供)

所有する高性能林業機械の一部(株式会社十津川造林提供)

自然とともにある林業の仕事

――株式会社十津川造林では、何名の方が働かれているんですか?

現場のスタッフが私を含めて12名、事務スタッフが2名です。現場は、造林、育林、伐採、搬出など作業内容によって班が分かれていて、その時々の現場の状況を見ながら人の数を調整しています。班ごとにリーダーがいて、進行状況などを取りまとめてもらいます。みんなそれぞれ得意不得意があるので、それを見極めて僕が現場の配置を決めていますね。

株式会社十津川造林社員

――現場スタッフは、男性が多いですか?

男ばっかりですよ(笑)。山の中は本当に何もないから、夏は暑いし、冬は寒い。携帯も繋がらない現場もあります。造林を担当する班だと、急な斜面で休憩する場所もないから、雨や雪の中で立ったまま昼食をとるようなこともある。雪だと、動いてないと体温を奪われてしまいますからね。

――それは男女問わず、体力的に過酷な現場ですね。

遠い現場だと朝5時半に出発して、現場が終わるのは14時半ぐらいということもある。現場が違えば、働く時間も違います。片道2時間以上だと泊まりになることもあるし、なかなか、キチッとした時間は決められないところなんですよ。

――やはり、天候によって左右されることも多いのでしょうか?

天候が一番難しい。台風なら前日に分かるから「明日は休み」と言えるんですが、朝になって大雪や大雨ということもある。無理して行ったら命に関わる仕事だから、木材を搬出するときに、滑って転落することもありうる。だからそういう日は休みにして、日曜日に現場に行くこともあります。毎週日曜日が休みと本当は決めてあげたいんだけども、ちょっとそこら辺はどうしても自然が相手なので決められないところがありますね。今後は天候に左右されない仕事をつくって、社員の労働環境についても改善したいと思っています。

株式会社十津川造林事務所

取材当日も十津川村周辺は雪が舞っており、この日予定されていた山での作業は延期となった

――自然が相手の仕事だからこそ、難しい部分ですね。やはり未経験から始めるのは難しいのでしょうか?

入社している人の中には未経験もいますよ。必要な資格は、入社してから会社負担で取得することができます。最近では、国が実施している「緑の雇用制度」という未経験者向けに、1から林業を学べる制度もあるんです。働きながら林業について基礎的な知識を座学や実習で学んだり、チェーンソーや重機を扱う資格も一通り取得できます。社内にも指導担当がいるので、そこでの学びを活かしながら、現場で仕事を覚えていくことができます。

――未経験の方でも安心して仕事に取り組めますね。県外から「就職したい」と応募される方もいらっしゃるのでしょうか?

今のところ、十津川村周辺か地元の人ばかりかな。このあたりは飲食店も数軒しかないから、自炊ができることにこしたことはないです。それが苦でない人なら大丈夫です(笑)。紀伊半島の真ん中で山に囲まれたイメージですが、和歌山県の新宮市まで車で1時間以内には行けるので、買い物には困ることはないですね。海に釣りもすぐいけます(笑)。家探しはなかなか難しいと思うので、村の移住相談窓口に相談してもらうか、もちろん僕らに相談してもらえればその辺りも含めてサポートします。

――この仕事には、どんな方が向いていると思いますか?

運動神経のいい人ですね!現場では、凹凸のある山道や、急な斜面での作業が多いので、運動が苦手な人はずいぶん苦労するんじゃないかな。ただ、苦労しつつも仕事を継続していくことで、数年後には気づいたら一人前の現場技術者になれると思うし、そのためのサポートもしっかりします。次の世代に山をつなぐには、人財なくして成し得ないからね。あと、虫が苦手な人は大変かもしれない(笑)。

造林の仕事は割と1人でやることも多いから、会話が苦手でも大丈夫だけど、機械を使う場面だとある程度、仲間とコミュニケーションを取らないと円滑に進まないので、高いコミュニケーション能力は求められないけど、みんなが気持ちよく働けるような声がけやちょっとした気遣いはできて欲しいかな。それと、わからないことはどんどん聞いて、自分で積極的に学んでいく姿勢を持って仕事に取り組んでくれることが大事かな。

先人から受け継いだ森を、次世代へつなげたい

十津川村の風景

――東さんが感じている、現在の林業全体の課題は何ですか?

「伐採や搬出」の部分では、以前よりも機械化が進んだことによって、若い人がこの世界に入ってくれる可能性はあるとは思うんですが、「造林」は、やはり基本的には手作業です。日本全体を見ても、ここ10年で造林をする人が高齢化で人数が減り、近いうちにゼロになる可能性もあります。伐って、植えて、育てるサイクルを未来へ継続していくには、林業に関わる人をもっと増やしていかなければならないし、関わる人が働きたい・働きやすい職場環境づくりを整えていけるよう頑張りたい。

――環境的にも厳しい仕事ではありますが、それでも林業に関わり続けている東さんのモチベーションは、どんなところにあると思いますか?

やっぱり小さな頃から森がそばにあって、自然が好きだし、林業が好きというシンプルな気持ちでしょうか。まれにこの地域以外からも依頼があって、仕事をすることもあるんです。例えば北海道だと、生えている木も土質も全然違うから、伐り方も使う重機も変わってくる。そういうワクワクした気持ちで、林業を追求することが単純に楽しいんですね。新しいチャレンジをすることで、勉強にもなるし、自分の価値観を広げることにもつながるんじゃないかと思うんです。会社としても、社員が新しいことにチャレンジできる風土を大事にし、現場技術者として成長していける、そんなやりがいのある労働環境を目指しています。

――最後に林業に入ってみようかなと思う方々に向けて、メッセージをお願いします。

正直にいうと、きつい仕事ですよ。図面を書くことから現場で作業するところまで、覚えないといけないことも幅広いですし。でも自分の手で植えた1本1本の木が成長している姿を見ると、我が子のようにうれしいんですよね。
一本の木を立派に育てるのに人の寿命以上に年月を要するし、成長できるようにあれこれ手入れしてあげないといけない。一つの森を作るってすごい壮大なことなんですよね。それを一歩ずつ実現させていく「林業」って、すごく難しい仕事だけど、将来への礎を築くやりがいのある仕事かな。

僕らが収穫できる木は、60年、80年、100年前に植えた人がいるからこそ、収穫できている。その長い歴史の繰り返しを、僕らは絶やすわけにはいかないんですよ。そのバトンを次世代につないでいくのが使命だと思っています。熱い想いをもって一緒に汗を流してくれる方なら大歓迎です。

株式会社十津川造林


林業に携わるということは、東さんがお話しいただいた言葉以上に大変なこともあるのだと思います。けれど林業の仕事について教えてくれた東さんの表情はいきいきと輝いていて、森を守る、林業の礎を築く人として誇りを持ち、仕事に励まれているのだと感じました。根底にあるのは、「次世代に豊かな森をつなげていきたい」というまっすぐな想い。その想いがあるからこそ、暑い日も、寒い日も東さんは森へと向かうのです。

Profile

企業名:株式会社十津川造林
所在地:奈良県吉野郡十津川村大字平谷144-2
電話番号:0746-64-0180
URL:https://totsukawazorin.com/