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インタビュー

2024.05.27

奈良の林業の未来をつくる若手林業家から聞く、林業のリアル。 山と生きることと、これからつくりたい未来とは

文 :さとう未知子
写真:取材対象者提供提供

吉野で500年ほど続く造林の歴史。長い年月を経て、次の世代へ伝え続けられ、今も美しい森が守られています。林業の人手不足・後継者不足は大きな課題。今回は、実際に林業に従事する若手林業家、黒滝村森林組合上山拓己さん豊永林業塩賀 光祐さん下市町森林組合霜辻 克了さんの3人に集まっていただき、座談会を開催。実際に林業で働くリアルとやりがい、それぞれがつくりたい、人と森の未来とは。

左から:上山 拓己さん(黒滝村森林組合) / 塩賀 光祐さん(豊永林業) / 霜辻 克了さん(下市町森林組合)

インタビュー:
上山 拓己さん(黒滝村森林組合)
塩賀 光祐さん(豊永林業)
霜辻 克了さん(下市町森林組合)

林業にたどり着いた、それぞれのこれまで

――まず、お一人ずつ現在のお仕事と、なぜ林業で働くことになったのかという経緯をお聞かせください。
上山 黒滝村森林組合で働いていて林業歴4年目になります。奈良県の香芝市出身で、大学卒業後の就職先を探している時に、バイト先のアウトドア系のアパレルブランドの先輩から、黒滝村森林組合の梶谷さんを紹介していただきました。林業で働く若手を探しているということで話を聞きに行ったところ、自分のやりたいことと合致していると思いました。僕は、ワーキングホリデーでオーストラリアのタスマニア島に行っていた経験があって、海外経験をする前は、会社員として働くことを当たり前に思っていたのですが、海外で色々な仕事があることを知り、田舎で暮らしながら土地の産業に貢献することに憧れを持ちました。梶谷さんに会ってお話を聞くと、奈良は木で有名でその土地の産業があることに改めて気づきました。そこで、実際に黒滝村に行ってみるとやるビジョンが見えたので、林業に入ることに決めました。

右:上山 拓己さん

塩賀 自分は豊永林業で働いて、3年目になります。奈良市出身で、大学から大阪に出て働いていましたが、仕事を辞めて奈良に戻り、現在は下市町で暮らしながら林業の仕事をしています。以前は、大阪で建築系のデザインベンチャーで働いていました。特殊な機械を使って家具をつくったり、大工さんの現場に行って手伝いをしたりと、木に触れる機会も多くありました。そこから、木や家具づくりなど、素材に注目するようになり、林業の人手不足という情報も目に触れるようになりました。自分自身も、自然が多いところで古民家暮らしをしたいという想いがふくらみ、移住支援センターに行って情報収集して、吉野でゲストハウスに泊まって林業体験をするようになりました。ある時、山を散歩していた時に黒滝村の道の駅に辿り着き、そこで今所属する会社が運営する「rin +」という木工のお店を発見して、シャッターが半分閉まっていたのですが、声をかけて無理やり開けてもらって話を聞いたのがきっかけです。そこで人材募集していると聞き、結果、働けることになりました。

左:塩賀 光祐さん

道の駅「吉野路 黒滝」の「rin+」店舗

霜辻 奈良県吉野郡の大淀町で生まれ育ちました。祖父の家は、天川村という山の上の方にあり、かつては祖父や父が銘木屋を家業にしていて、幼い頃から祖父と一緒に山の中を歩いていました。自然に触れる機会が多く、森と育っていくのが普通でした。高校は、吉野高校の森林科学科に通って、自然環境を守ることや森林資源の有効活用についてなど学んでいました。卒業して全く森林とは関係のない仕事に就いたのですが、コロナで転職することになり、自分がやりたいことに立ち返ると、木のことを勉強して山の仕事をしたいということを思いました。そこで、ちょうど募集をしていた下市町森林組合で働くことになり、現在で4年目になります。

働いていると、ご飯が美味しい。自然の中で達成感を感じる、林業のやりがい

――実際に林業の仕事に入って感じたギャップはありましたか?
上山 林業は朝早く、夕方には終わる作業と聞いて、自分の時間がつくりやすいイメージがありました。働いてみると、実際は天気に左右されて、雨の日には仕事ができなくなってしまう。そうすると、お給料にも影響が出るので、土日の晴れた日には仕事をしておこうと思うと、気がついたら土日も働いていて、自分の時間があまり取れていないなと感じることはあります。自分で仕事とプライベートのバランスを取ることも必要だと最近は感じています。

――お給料面はいかがでしょうか?一般の会社員より低くて大変と感じますか?
霜辻 僕は前職のお給料がとても安かったので、今の方が良くなって、遊びに行けるようになりました!今の方が高くて、安定していると感じるのでお給料のギャップはないですね。

塩賀 僕も同じく、以前はベンチャー企業だったので生活ギリギリのところがありました。今の事業体は株式会社で賞与も出ますし、安定したお給料をいただけています。ギャップというと、僕は林業についてあまりリサーチせずに入社したのですが、機械化が進んでいることに驚きました。林業は、もっと自然の中でゆったりしているイメージがあったのですが、意外とスピード感が必要。作業の上では、時間との戦いで、いかに効率よく仕事するかということが求められます。

――林業のやりがいはどんな時に感じますか?
霜辻 僕は普段、間伐をする山に作業道を作っているのですが、山に道をつけながら今日はここまで進んだということが目に見えてわかる。また、除伐をした時にも、1日の作業が終わると、ここからここまでしたということが見えるので、達成感につながります。
※作業道作設についてはこちら

林業の視える化を。林業従事者が生み出す木製品と広がる未来

塩賀 一日中体を動かして働くので、終わった後の達成感はありますね!仕事の後のご飯が美味しいです。働いて食べる、という実感がありますね。

右:塩賀 光祐さん

霜辻 僕も働いている日はご飯4杯ぐらい食べますね。働いていない日は、1杯で充分なのですが。普段より美味しく感じます。

上山 間伐が終わると、光が差し込んで森が明るくなります。その景色がすごく好きで、お弁当を食べながらその景色を見て、あと10年、20年先に次の人はこの景色をどのように見るだろうと思ったりします。また、特殊伐採の仕事をする時には、危険な木だったり、倒れそうな木を伐採するため、人の役に立っていると感じています。

「林業のしんどさ」のリアル。しんどくない仕事なんてない

――林業の仕事は体力的に厳しいと思われることが多いと思うのですが、実際に働いてどのように感じましたか?
霜辻 先ほども機械の話が出ましたが、全てを人力でするわけではなく、半分機械で半分人間の力。そこまで体力的にキツイわけではないと感じます。ただ、それでも体力が必要な仕事というのは確かなので、現場で作業をしたいという方には良いけれど、現場作業をしたくないという方には合わないかと思います。

塩賀 どの仕事をしていてもしんどくない仕事なんてないと思います。昔から林業は、「キツイ・汚い・危険」の3Kと言われることもありましたが、それも本人がどう感じるか。今は、機械化も進み、林業も変わり続けている。どういうイメージを持って入るかということが重要だと思います。

上山 体がしんどいことはあるけれど、他の仕事をしている友人たちと話していても、働いて感じているしんどさの種類が全然違うんだと思います。自分は林業をしていて体力的にはきつくても、心の疲れにはならないので、辛さの質が全く違いますね。

――林業の仕事をしていて、良かったなと感じる時はどういうところでしょうか?
霜辻 山で仕事をしていると、四季の移り変わりを肌で感じることができます。今のような季節は、徐々に暖かくなる。花が咲き始めたことや、土の香りが変わってくること。常に自然と関わっているからこそ小さな自然の変化にも気づけることも魅力の一つだと思います。

塩賀 精神力が強くなるところです。仕事に対して、これで良いのかと自分に厳しくなるし、効率よくできるようになる。効率よく、綺麗に作業することができるようになるのが面白いです。

上山 最近、身についてきたなと感じることは、物事を先まで考える癖がついたこと。山を相手にしていると、自然と、長いスパンでの見方が身についてくる。街の木を伐採する作業では、この先、5年後にこの木がどのようになるかを想像しなければいけません。人工物だったら、そのものが壊れたら取り替えたら良いのですが、自然物は代えがきかない。枝の切り方ひとつにしても、間違えたらその木を腐らせてしまうことにもなってしまう。また、植林においては、最近は広葉樹も扱うのですが、樹種によって生息する場所も違い、この場所ではどの樹種を植えたら良いのかということや、この木は成長すると広がるから場所を確保して植えるなど、考えながら仕事をしていかなければいけません。そういった仕事を通して、先を読んで生活していくことが大事だという感覚になりました。

――林業での暮らしについて、不便なところはありますか?
上山 林業を始めた当初は、地域おこし協力隊で黒滝村に住んだのですが、何をしても寒くて、ムカデも多いというような環境が大変でした。今は大淀町へ引っ越して快適になりました。大淀町は、街と田舎の間くらいのところなので、どちらでも遊べるのが魅力。自然も近く、車で20分ほど行けば買い物にも行ける。目の前に川があって、テントサウナをして遊んだりもしました。生活するのに不便なところはないですね。

塩賀 僕の住んでいる下市町も同じです。車で15分ほど行けば、スーパーもコンビニもありますし、近くに温泉もある。近場に温泉があるというのはすごく良いですね。生活していると慣れて当たり前になってきているのですが、こうやって言葉にすると贅沢な暮らしだなと思いますね。

――休日はどのような過ごし方をするのでしょうか?
塩賀 休日、職場の先輩と飲みに行ったりすることもあります。それと、趣味でダンスをしているのですが、最近は、休日に子供や高齢者の方にダンスを体験してもらって地域の活性化につながることができたら良いなということも考え始めています。また、今年になって、ずっとやりたかった家具づくりも趣味で始めるようになりました。職場の大先輩に当たる方で、黒滝村に住む90歳の大工さんがいるのですが、その方のところに行って教わっています。かつては、木を扱う木地師や宮大工という方が多かったのですが、今は後継者不足ということもあるので、その技術を残していくことは大切だと感じています。

休日は子供や高齢者の方にダンスを教えている

趣味で制作した家具

上山 僕は、休日は市内のイベントに出かけたり、あと、仕事が終わって空いた時間を使って薪割りをしています。仕事で知り合った中に古民家で暮らしている方がいるので、薪を割って欲しいと頼まれて販売しています。

それぞれが感じる、林業の課題とこの先につくりたい未来とは

――林業に携わって感じた課題はどんなことでしょうか?
塩賀 本当に人手不足なんだなということは感じましたね。

上山 吉野林業は大径木が特徴で、住宅の柱などで使われていたのですが、需要が低くなり、価値が下がってしまいました。木の売り方を変える視点が必要なのではないかと思います。塩賀さんのところのように、rin+の事業で、山で伐った木を自分たちで製材して板にしたり、暮らしに合ったものを自分たちで加工できれば使い方も広がっていくような気がします。

霜辻 健全な森林のサイクルが果たせていないと思います。木を育てて、伐採し、必要なところに木を使って、また植えて、育てるという森林のサイクルが果たせていない。今、放置林が多いことも問題になっています。戦後に木を植えたことで、これだけの木が育って、建材として使えるようになってきているのに、自国の木を使わずに外材を輸入して使っているのはすごくもったいないと思っています。できるだけ、自分たちで自分たちの国の木を使っていけるようになれば良いなと思っています。

――そういった課題に対して、どのようにすれば木を使っていくことを広げられると考えますか?
霜辻 今、海外の富裕層にも、杉・檜の木目の美しさが人気になっていると聞きます。海外で流行れば、それがまた日本でも注目されるようになる。もっと海外向けにも、日本の木の美しさや技術の素晴らしさをアピールしていったら良いのではないかと思います。

塩賀 僕は、かつてのヘリコプターで木を出していた時代のような価格に戻ることは難しいと思っています。木を色んな使い方で使ってもらえるように考えたら良いと思う。まずは、木に興味を持ってもらって、より身近に木を感じられる未来にしていくこと。自社で持っている簡易製材機もまだ使いこなせていないところもあるので、より活用して、身近に木を感じてもらえる木製品を作っていきたいと思います。

簡易製材機を使って制作した木製品

上山 仕事で作業道作設を担当しているのですが、既存の作業道は関係者だけが使う仕様になっていることが多いので、そこに一般の人が歩けるような道づくりをしていけたら良いなと思っています。ヨーロッパの方では行われているようなのですが、犬を連れて山に入って来てもらったり、子供も木に触れられたり、いろいろな人に入って来てもらえるような道をつくりたい。そこに、自分たちのような林業従事者が案内して、もっと身近に山に入ってこられるような企画を考えていきたいと考えています。

塩賀 確かに、山を体験として、サービスとして開いていくことはすごく大切な気がします。

――どんな方と一緒に働きたいと思いますか?
霜辻 自然が好きな方で、山をこうしていきたいというビジョンがある人と一緒に働きたいですね。

上山 今、イギリス人と一緒に働いているのですが、全く意見が違ったりするのがすごく面白いです。そうやって全く違った環境にいた方、ヨーロッパでもアジアからでも、色々な場所から来てもらって、考え方を聞いたりしてみたい。そうすると、新しい林業の形ややり方が見えるかもしれないと思いますね。

右:上山 拓己さん

塩賀 興味があれば、考えすぎず挑戦してみてほしいですね。山をどうやって生かしていくかを、一緒に考えていきたいと思います。


林業で働くことは、木を伐って、道をつくり、木を植える作業を行うだけじゃない。この先に残したい自然の風景を想い、人と森をつなぐことを考えている。時代が加速するなかで、林業のやり方も変わり続けています。人と森とが関わり続ける以上、林業家の存在はなくてはならないもの。彼らが何を想い、どのように働いているのか、私たちも知ることで林業のイメージも変わってきます。まずは、山に行ってみよう。その土地の土を踏み、空気を吸い、人と出会う。そこに関わってみることで、彼らと共に、新しい未来をつくることができるかもしれません。

Profile

企業名:豊永林業株式会社
所在地:奈良県吉野郡下市町下市135番地
電話番号:0747-52-2026
URL:http://houeiforestry.com/

Profile

企業名:黒滝村森林組合
所在地:奈良県吉野郡黒滝村寺戸154
電話番号:0747-62-2124
URL:https://www.k-shinrin.jp/

Profile

企業名:下市町森林組合
所在地:奈良県吉野郡下市町栃原2303−7
電話番号:0747-53-0003
URL:https://shimoshin.wixsite.com/website