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現場密着

2025.12.25

山守の家系からアカデミーに。機械化がもたらす働き方と未来へ繋ぐ山

文・写真:都甲ユウタ

山守(やまもり)制度という言葉をご存知でしょうか?山守とは山の所有者(主に地域外に住む)に代わり、山の維持管理を任されている人のこと。人を雇い施業をし、材の収益の数%を山守料として得ていました。今回お話を聞いた杉森 翔太さんは、代々続く山守の家系に生まれました。伝統的な吉野林業を小さい頃から体験してきた杉森さんは、先進的な林業を学ぶことのできる奈良県フォレスターアカデミーを経て、現在は株式会社小田総建に就職され3年が経ちました。株式会社小田総建といえば高性能林業機械の導入に積極的に取り組まれています。伝統的な視野を持ちながら先進的な世界へと進まれた杉森さんに、林業の今と未来を伺います。

インタビュー:杉森翔太(株式会社小田総建)

伝統的な山守の視点から現代的な林業へ。深く学び直す日々

――杉森さんの生い立ちを教えてください。
奈良県橿原市出身、1995年2月生まれの30歳です。橿原市自体は山の多い地域ではありませんが、家業が代々続く山守で、そのつながりは吉野地域へと広がっています。幼い頃から祖父母の家がある東吉野村に帰省すると、祖父に山へ連れていってもらう機会が多く、実際の林業現場を手伝うこともありました。高校卒業までは奈良県内で過ごし、大学では農学部森林科学科に進学し、森林施業や森林経営を学びました。

杉森 翔太さん。

――林業を仕事に選ぶことはとても自然な環境だったのですね。
そうですね。小学校の将来の夢に「林業」と書いた記憶があるほど、自然と林業が身近にある環境で育ちました。大学卒業後は動物が好きだったことから、ペット用品通販会社に就職しました。そこで3年間働く中で、自分の原点である林業への想いが再び強くなり、奈良県へ戻って父の林業事業体に入りました。

――既に林業に関しての知識をお持ちだった中、奈良県フォレスターアカデミーに入学されたきっかけは何ですか?
3年間、森に関わっていなかったというブランクがある中、改めて林業の道に進もうと決めたときに、“現場で通用する力を身につけたい”という思いが強くありました。仕事をしていく中でフォレスターアカデミー開講を知り、入学しました。3年間のブランクを埋めるだけでなく、奈良県の林業の現状や、実践的な技術、地域との関わりを学び直す貴重な期間となりました。伝統的な山守の視点だけでなく、スマート林業など現代的な取り組みに触れ、アカデミーでの2年間は林業を広く捉え直す大切な時間になりました。

奈良県フォレスターアカデミー。

――その後、株式会社小田総建さまに入社されたのですね。
卒業後は父の事業体に戻る道もありましたが、吉野林業以外の森づくりや考え方にも触れたいと思い、他の事業体で就職先を探していました。その中で、林業事業体としては比較的新しいながら事業量が大きく、先進的な取り組みを行う株式会社小田総建に魅力を感じ、現在は同社で修行しながら多様な林業のスタイルを日々、吸収しています。将来的には家業を継ぎ、伝統と新しい技術を融合させた林業を目指しています。

――普段の仕事内容を教えてください。
株式会社小田総建では、主に間伐を中心とした現場作業に携わっていますが、特定の担当にとらわれず、林業に関わる一連の業務を幅広く経験させてもらっています。作業道の作設、チェーンソーによる伐倒、重機を用いた集材・造材、フォワーダ※1での運材、搬出、測量、さらには補助金申請に関わる事務作業まで一通り担当しています。若いうちから多くの工程を経験できる環境があり、成長を実感できることが大きなやりがいに繋がっています。

※1:フォワーダとは、伐採後の丸太を荷台に積み込み、土場などへ運搬する林業専用の集材作業車。

――1日の流れを教えてください。また主にどんなことを担当されていますか?
現場は森林作業道作設チーム、間伐チーム、搬出チームと分かれていますが、私は状況に応じて各工程に入ります。その中でも特に好きなのは重機に乗ることで、最近は作業道作設に一番やりがいを感じています。新しい技術を学べる面白さがあり、現場ごとに地形や状況が異なるため、常に考えながら作業を進める面白さがあります。

重機に乗ることが好きだと語る。

取材時は、作業道に降った雨を意図した方向に流すための「木製横断排水工」の準備中。

――仕事を行う上で気をつけていることはありますか?
林業は木という重量物を扱う危険な仕事であるため、安全確認や準備、仲間との声かけなど基本的なことを徹底しています。慣れが一番怖いので、初心を忘れず危険を予測して動くことを心がけています。

――仕事はどのようにして覚えていきましたか?
フォレスターアカデミーで基礎を学んだとはいえ、現場では「見て覚える・やって覚える」ことが多く、分からないことはすぐに聞き、先輩の技術を吸収しながら経験を積んできました。株式会社小田総建は社長や専務を含め、若手が意見を言いやすい環境で、実際に提案すれば取り入れてもらえることも多く、風通しの良さを感じます。

林業部主任 酒井 賢二さんと楽しく忘年会の予定を話している様子。

――フォレスターアカデミーの卒業生だからこそ活かせた経験とはどういう点ですか?
アカデミーでの学びが特に活きているのは、森林を多面的に見る視点です。「立木が混んでいるから伐る」といった単純な判断だけでなく、防災機能や水源涵養※2、生物多様性、レクリエーションなど、森が持つ多様な価値を踏まえて作業できるようになりました。現場である曽爾村では兜岳・鎧岳の麓で作業することがあります。伐採後の見晴らしが地域の魅力向上に繋がることにも気づけるようになりました。

※2:水源涵養とは、森林の土壌が、降水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するとともに、川の流量を安定させる機能。

――やりがいについて教えてください。
自分が携わった森が整備され、所有者の方から「きれいになったね、ありがとう」と喜んでもらえる瞬間が何よりのやりがいです。祖父や父が山守として地域の山を守ってきたように、今は自分がその役割を担っていくんだという実感があります。森を整えることで地域に安心や価値を届けられる、そして誰かがちゃんと見てくれている。そんな点が林業に携わる自分のやりがいであり、励みにもなっています。

間伐を行った山は綺麗に光が差し込んでいる。

担い手不足に打つ一手。高性能林業機械を活用する株式会社小田総建の強みと、風通しの良さ

杉森さんの勤める小田総建は、工務店として建築業からスタートし、土木業へと事業を広げ、約10年前から林業にも参入されました。建築・土木で培った専門知識に加え、製材や森林組合での経験を持つ方々が集まり、多角的な強みを生かした事業を行っておられます。参入から約10年、今や行政とも連携し地域の林業政策にも関わる存在へと発展されています。さらに詳しく、小田総建のお話をうかがっていきます。

――株式会社小田総建さまの強みについて教えてください。
株式会社小田総建の最大の強みは、林業を“しっかりとしたビジネスとして成立させる”という明確な方針を持ち、生産性向上のための機械化を積極的に進めている点です。人の手だけでは限界があります。高性能林業機械が充分にそろっていることで、利益を出しやすい仕組みを作っている会社だと感じます。基本的な現場である曽爾村は林業の盛んな吉野地方ほど急峻な地形ではないので、機械導入のしやすさ、作業道のつけやすさが強みの背景にあります。また、株式会社小田総建に入って驚いたのは、作業道作設の緻密さです。1ヘクタール※3に200mほど作業道を作設し、最初にしっかり整備をしておくことで、その後の作業が非常に進めやすくなるという考え方が徹底されています。

※3:1ヘクタールとは、100m×100m=10,000㎡(1ヘクタール)。

機械が勢揃いした圧巻の様子。

――積極的に機械導入を進めているからこその業務内容や、効率化について聞かせてください。
昨年は造材から積み込みなど広く対応できるグラップルソー※4を導入し、道づけにはグラップルバケット※5を活用しています。プロセッサー※6を借用して運用するなど、現場に合わせて柔軟に最新機械を取り入れています。また測量ではGNSS測量※7を導入し、従来2人必要だった作業が1人で完結するようになりました。こうした効率化の積み重ねが、現場全体の生産性を高めていると実感しています。

※4:グラップルソーとは、木材を掴む「グラップル」に「チェーンソー」が組み合わさった建機用アタッチメント。

※5:グラップルバケットとは、作業道作設、伐採、木材の積み込みなどの複数の作業をこなせるハイブリッド型の多機能林業機械。

※6:プロセッサーとは、原木から枝を払い落とし、一定の長さに切り分ける連続的な作業を自動で行う高性能林業機械。

※7:GNSS測量とは、人工衛星システム(GNSS)を利用して高精度に位置を測定する測量技術。

プロセッサー。

グラップルバケット。

ウインチ付グラップル。

――業界全体が担い手の長期的な減少傾向にある中、機械の導入がもたらす効果は大きいですね。
機械を活用することで効率よく作業量を増やし、利益を出すことができています。その結果、森林所有者や私達社員への還元につがっていることを実感しています。さらなる設備投資も可能になり、持続可能な林業経営が実現できていると感じています。

――会社のメンバーや、風通しの良さ・職場の雰囲気はいかがでしょうか?
株式会社小田総建は、話すことが好きな人が多く、現場でもよく会話が飛び交っています。作業の合間や休憩中には冗談を言い合ったり、いつも和やかな雰囲気です。話しやすい方ばかりなので、若手の自分でも自然と馴染むことができました。林業は危険を伴う仕事ですが、普段からコミュニケーションがしっかり取れている分、作業中の連携もスムーズです。風通しが良く、困ったことがあればすぐに相談できる環境が整っているのは、働く上でとても心強いと感じています。

20代から70代まで幅広く在籍。取材時も和やかな雰囲気が流れていた。

――実際に働いてみて、林業に対してのイメージの変化やギャップはありましたか?
自分は小さい頃から林業が身近にあったので、働き始めてからのギャップはあまり感じませんでした。山に入ることも、木を伐ることも、機械を触ることも、ある程度イメージはできていました。もちろん、実際に現場に立つと体力的にきつい場面や危険な作業もあります。でも、それも含めて「林業ってこういうもんだよな」と自然に受け入れられました。むしろ、子どもの頃に見ていた作業を自分がやるようになったことで、改めて林業の奥深さや面白さを日々、実感しています。ただ新しく林業を始めようとする人にとっては実際の現場のギャップに苦労することも多いと思います。

――施業する中で危険を感じたこともあるのではないでしょうか?
林業はどうしても危険が伴う仕事なので、朝礼の際に「朝も昼も怪我のないように」と言葉にして、社長、専務も含め皆で声を掛け合い安全意識を高めています。やって覚える部分が大きい仕事です。自然相手なので同じ場面はほとんどなく、「これが唯一の正解」というものもありません。基本は先輩に学びながら、自分に合うやり方を見つけながら、経験を積み重ねていく世界です。伐倒作業ではヒヤッとしたことも正直ありました。だからこそ「慢心しない」という意識がとても大切だと感じています。ただ株式会社小田総建として林業を始めて10年以上、いままで事故ゼロなんです。

――これまで事故ゼロというのはすごいですね。
ちゃんと気を付けて作業していれば、事故は防げるものだと思います。大切なのは、初心を忘れないことです。もし間違ったことをしてしまえば、厳しく叱られることもあります。命が懸かっている仕事なので、当然のことですよね。

作業中はトランシーバーで密に連携をとることができる。

――社員の皆様の年齢層はどうですか?
7月に新しく入社した一番若い子が25歳。その次に若いのが自分で、35歳の人が1人。 あとは40代が1人。 50代が3人。 さらに70代の人という感じで、幅広く在籍しています。

――若手林業従事者としてどのようなことを意識して先輩方と山に入っていますか?
自分はまだ修行中の身なので、作業の意味や意図をよく観察し、わからないことはすぐ聞くようにしています。若手だからこそ、機械やデジタル技術など、新しい視点を持ち込むことも意識しています。

進む機械化による働き方の可能性。「辞めないで済む」ということ

――人手不足や高齢化について実際どう感じていますか?
業界全体を見ると、確かに高齢の方が多いですが、フォレスターアカデミーなどの教育機関が整備されたことで若手が挑戦しやすくなり、以前より新規就業者は増えている印象があります。ただ、危険や体力面、収入や地域との関わりなど、続ける上でのハードルはまだ多く、若手の定着が難しいという課題は残っています。人手不足というより、「続けられる環境」が不足しているのだと思います。

――杉森さんを含む若手林業従事者が長く働ける環境を作るために何が必要でしょうか?
若手が長く林業を続けるには、安心して働ける環境づくりが何より大切だと思います。現場では高性能林業機械の導入が進み、体力だけではなく技術力や判断力が求められるようになっています。だからこそ、安全対策が整っていること、安定した収入があること、そして技術を学べる環境が不可欠です。先輩から学びやすい雰囲気や、成長を実感できる仕組みがあれば、若手はより長く林業を続けられると感じています。

――機械化が長く仕事を続けることや「若者の定着」を促す側面もあるのでしょうか?
機械導入がもたらす効率化はもちろんなのですが、機械を導入することで身体的負担が減り、木が伐れなくても体力に自信のない人でも機械操作というオペレーターとしての役割があることで、雇用の継続に繋がる。辞めずに済むんです。そして、長く林業を続けられると思います。

――どんな仲間と一緒に働きたいでしょうか?
働く仲間としては、何より安全を第一に考えて行動できる人と仕事がしたいです。

今、山林を取り巻く課題と、未来へと引き継ぐ意味

――これから起こりうるであろう林業の課題についてどう考えていますか?
既に現れてきている課題なのですが、森林所有者の世代交代や不在村化が問題になっています。何より山の価値が以前よりも下がってきていることが山への関心を薄れさせ、施業をしたい人がいるのに森林所有者不在のため、同意が得られないということが起きています。さらに、森林の境界がはっきりしないことで、計画を立てるのに手間がかかり、場合によっては施業地としての活用を断念せざるを得ないケースも増えてきています。細かく持ち主が別れてしまっている山林を集約できずに森林整備が進まなくなってしまうのではないかと懸念しています。

――未来へ山を残すとはどういうことなのでしょうか?
林業に携わる中で、未来にどんな山を残すべきかを考えるようになりました。山を残すというのは、ただ木を残すのではなく、森林が本来持つ力を最大限に発揮できる状態に保つことだと思っています。今ある森林は、戦後の拡大造林によって先人たちが未来を想って残してくれた基盤です。これを「負の遺産」にしないためにも、次の世代へ良い形で引き継ぐ責任があると強く感じています。

――目の前の山を施業していく重要性について教えてください。
全国的に見れば、まだ手入れが追いついていない森林は多く、自分一人でどうにかできるものではありません。それでも、まずは目の前の山を丁寧に整え、価値ある森として育てていくことが自分の役割だと思っています。山は水や空気を育て、災害を防ぎ、動物や人の暮らしを支えてくれる存在です。手入れを怠れば荒廃し、災害リスクの増加や獣害など、人の暮らしにも悪影響が及びます。だからこそ、林業は自然と人の暮らしを守るための大事な仕事です。これからも森の力を発揮できる未来を見据え、次の世代が誇れる山づくりに取り組んでいきたいと思っています。


林業界全体には担い手不足という課題があり、若者の新規就業者は増えているものの、定着まではなかなか結びつきづらいという課題があります。杉森さんは穏やかな雰囲気を纏いながらも、ビジョンは明確で、伝統的な山守としての視点に、株式会社小田総建ならではの強みを重ね合わせ、現代の林業が抱える課題を鋭く見つめていました。その視線の先には、代々続く山守として「山を未来へ良い形でつないでいく」という責任、そして何より、自然や林業、生き物のことが心から好きだという、根源的な希望と優しさに溢れていました。そんな杉森さんが、将来山守として森林経営に取り組んでいく姿がとても楽しみです。

Profile

企業名:株式会社小田総建
所在地:奈良県宇陀郡曽爾村長野19
電話番号:0745-94-2137
URL:https://bso16539.bsj.jp/

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