企業インタビュー
2024.03.29
「山に関われる人を増やしたい」林業を新しい時代へ導く挑戦と想いとは
文 :さとう未知子
写真:西垣林業フォレスト株式会社提供
山を守り、木を伐り出して人へ届ける。人は山から恩恵を受け、人が手を掛け続けなければ、豊かな森林資源を守り続けることはできない。山と人の関係性を守り続けるため、今、多くの林業事業体が人材育成に取り組んでいます。今回ご紹介するのは、明治から100年以上続く歴史を持ち、林業総合事業体として全国に展開する西垣林業株式会社の子会社である西垣林業フォレスト株式会社。西垣林業フォレスト株式会社は奈良県を初め、三重県・愛知県・山形県・高知県に事務所を持ち、各地域と連携しながら林業・木材産業の発展と人材育成に取り組んでいます。社長の横谷 圭二さんに、林業を次世代へつなぐ挑戦とその想いを聞きました。
インタビュー:横谷 圭二さん(社長)
全国の林業地とつながり、技術交流を行う
――西垣林業フォレスト株式会社は、親会社である西垣林業株式会社から子会社化された組織ということですが、会社設立の経緯を教えていただけますか?
親会社である西垣林業株式会社は、吉野林業の中心地の一つである東吉野村で、明治45年に創業しました。木を伐採する素材生産から始まり、その後、伐採した木をどのように販売していくかということに事業を広げ、製材工場、木材市場の運営、建築工事請負など多岐にわたって全国展開してきました。ところが、原木市場や製材工場の街での仕事と、山の作業とは働き方が全く異なります。素材生産業を完全子会社化した方が事業としては進めやすく、就業規則も自由度が高くなり、働きやすい環境になるのではないかと考えました。さらに、昨今、木材価格が低迷傾向にあり、林業従事者の数が減ってきましたので、西垣林業株式会社の祖業である素材生産業に再度力を入れていこうという想いもあり、2019年に子会社化しました。
――他の事業体との違いなど、西垣林業フォレスト株式会社の特徴を教えていただけますか。
一つは、親会社の西垣林業株式会社が全国に事業拠点を持つので、幅広く技術交流が行える点です。林業は地域に根付いて従事していることが多いので、その土地の常識みたいなものがあるのですが、そのほかの地域に行ってみると、地域ごとに工夫されている部分もあって。例えば、雪が降った際の対策は東北の人が長けていたりする。そうやって、各地域の良いところを取り入れていけるようにと考え、WEB会議で全社で意見交換会を行ったりもしています。また、社内だけでなく、同業者とのつながりも強いので、1年間他社へ出向して勉強するなど、技術交流を幅広く行えているところは他社にない特徴かと思います。もう一つには、伐採や植林・育林という作業以外にも、木材を流通させる事業を行っているため、製材所や市場で勉強して、木材を商品価値として扱うことを意識しています。木材の価値が高まらないと、結局は山にお金が戻らない仕組みになり、最終的には持続した林業を続けられない。山で伐採するだけでなく、この木材がどのように使われるのかということまで考え、木材の価値を知って作業をすることが重要だと意識づけています。
――横谷さんが林業に携わるようになった経緯を教えていただけますか。
私は実家が奈良県桜井市の多武峰(とうのみね)の方で山守をしていたため、幼い頃から祖父や父に山に連れて行ってもらっていました。学生時代のアルバイトも、製材所やヘリコプター集材の現場で手伝うなどを経て、就職するときはこの地域で先進的に事業をしている西垣林業株式会社に決めました。
――今は経営者をされていますが、かつては山の作業もされていたのですか。
そうですね。会社に入って初めの頃は西垣林業株式会社の山林部に10年ほど所属していたので、山に入って伐採の業務にも当たりました。その後は、全国に行かせてもらい、いろいろな地域の素材生産業者の方とお話をさせてもらう機会がありました。そういった他地域との交流を通して、いろいろな地域の良いところを奈良県に持ち込みたいという思いがあって。新しいことを始めるには勇気もいるし、林業自体が落ち込んでいる今では目の前の仕事をするのが精一杯で、挑戦することが難しい。ただ、私どもの会社は新しいことにもチャレンジできるベースがあるので、少しでも山の作業での環境を整える役割が担えるのではないかと思っています。
――林業全体の振興を考えていらっしゃるのですね。ご自身でも山の作業に入られていた経験もあるので、現場のことが分かっているというのは、心強いですね。
そうですね。正直言って林業は大変なことの方が多いです。ひとつひとつの作業が危険ですし、吉野は機械化が進んでこなかったので、人力に頼っているところが多い。山に通うのも、車を降りてから徒歩で2時間くらい荷物を持って現場へ急峻な地形を登っていかなければならないなど、道やインフラも整備されていない環境なので、本当に大変な仕事です。ただ、木や山が好きで、山が綺麗になっていくのを見るのが嬉しいので、私も山に入るのが好きですね。もっと安全に山に入ることができるようになれば、山に関わりたいと思ってくれる人は増えると思うので、そこをなんとかしたいという想いがあります。
新しい技術を取り入れ、山での作業の環境を整える
――林業の課題に対して取り組んでいることはどんなことでしょうか?
かつて奈良県は、ヘリコプター集材を出材方法の主流にしていて、ヘリコプター会社が5社常駐していましたが、多くは撤退され、今では1社になりました。1社となるとコストもかかり、山林所有者が木を出したいと思っても、自由に出せなくなってしまったという現状があります。また、作業道作設に関しては、急峻な地域では道をつけたところで山崩れが起きたり水害に遭ったりすることもあり、林業の出材方法としては良いが、全ての土地に合うという訳ではありません。そこで、より安全にできる架線集材の方法を探っていたところ、県が所有するスイス式の架線機械があるということで、私たちが購入した国有林の立木で取り組むことになりました。奈良県フォレスターアカデミーの協力もあり、地域の素材生産者さんにも見てもらい、実践練習や交流を行いました。また、機械を使うだけでなく、メンテナンスもできなければいけないということで、1週間のスイスでの研修も行いました。新しい方法が使えそうであれば普及させることで、より簡単に山での架線作業がやりやすくなるのではないかと。まずは、一歩目を踏み出さないと、始まらないので県の力を借りて一緒にやらせていただきました。
――実際に使ってみてどのように感じられましたか?
日本の地形に合えば発展の可能性があるかと思いました。まだチャレンジ段階ではありますが、安全であれば取り入れていきたいと感じました。
――新しい技術も取り入れながら、人材育成に取り組まれているということですね。募集する職種は、どのようなお仕事でしょうか?
吉野エリアを中心に、奈良県と三重県の素材生産の作業がメインになります。西垣林業フォレスト株式会社はさまざまな仕事ができる環境にあるので、伐採したいと入って来る方がいても、実際やってみて育林や植林の方が向いている方もいるので、適材適所を見極めて判断しています。また、奈良県ではさまざまな出材方法を身につけておかなければいろいろな山に対応できないので、多くの作業方法を身につけることになる。やはり、林業は廃業するところが増えてきてしまったので、頼まれたらどんな山でも出せるようにしていきたいなと思っています。
――奈良県では、植林も進められているのでしょうか?
奈良県では、植林はかなり少ない方ですね。主に愛知県・高知県など別の事務所では植林を進めていて、最終的には、奈良県でも伐採から植え付けまで全て担えるようにという想いがあります。というのも、吉野林業は他県との大きな違いで、植栽の本数が違います。他地域では、1haに2,000本や3,000本を植えて、50年から60年くらいで成木となり、循環するというやり方。それが、吉野の場合は密植が特徴で、10,000本を植えていたので、50年60年くらいでは、まだ成長途中。150年ほどの長伐期の林業をしてきたので、植林というサイクルが今ではできていません。その分、神社仏閣や和室に使われるような木材を育てているので、木材の付加価値を上げることを理解していないと、吉野の山は触れない。吉野林業は他の地域に比べても、特殊だと思います。
林業というのは、作業するだけでなく、その地域のことや歴史も知っていないといけません。山の管理方法などもそれぞれの地域で違うやり方がある。よく日本の林業と外国の林業で比べられることがありますが、日本のなかでも、47都道府県があれば47の違いがあると思っていて、やり方・考え方が違いますよね。気候によって植栽されている木の違いもある。そこの地域の文化も学びながら素材生産をしないといけないと思っています。
山に関わってくれる人材を育て、次の世代へつなぐ
――今、西垣林業フォレスト株式会社では何名の方が働かれていますか?
会社では40名ですが、奈良本社には15名です。平均年齢は47歳で、20代から70代まで幅広い年齢層がいますね。
――主に、奈良県出身の方が多いのでしょうか?
県外からの方が多いですね。あとは、東吉野村が発祥の地なので、東吉野村で個人で山守をやっていた方もいらっしゃいます。林業が産業として厳しくなり、1人で事業をやっていきにくい環境になってきたので、そういう方たちをお迎えしました。
――日々の業務で心がけていることは?
やはり、安全第一が絶対条件です。林業は他の産業より比較的事故も多いため、若い方にも敬遠される理由の一つになっていると思っています。安全な作業を徹底するためにコミュニケーションを大切にしています。そういう意味では、西垣林業フォレスト株式会社は仲が良く、先輩とも冗談を言い合う関係で、非常に働きやすいかと思います。その次は、信頼です。山主さんや依頼者、発注者の方に任せて安心してもらえる作業を心がけて、整理整頓から挨拶も含めて、気持ちよく地域の方に認めてもらえるような作業を意識しています。
――どういう方が林業に向いているのでしょうか?
仕事は「お互い様」ということがあるので、協調性を持ってやれる方なら安心して任せられますね。逆に、大雑把で横着するような人は向かないと思いますね。山の作業は自然を相手にして豪快に見えるのだけど、細かいところが多いです。機械のメンテナンスやチェーンソーの手入れなど、丁寧に仕事ができるということが非常に大切です。そして、自然の厳しい環境を全部受け入れた上で入りたいと思ってくれる方だと良いですね。山の作業は慣れるまでは非常に過酷です。でも、慣れてくると、その厳しさも含めて大自然に出ていくことが心地よくなります。やはり、木材や山を大切に思ってくれる気持ちがあれば、それが一番大切なことかと思います。
――最後に、会社としての目標やビジョンを教えていただけますか?
山に関わってくれる人材を増やしていきたい。安定した雇用と、安全を守りやる気のある優れた技術者を育成して、地域の山を守っていきたいと思っています。日本の国土にこれだけ森林資源が多いなか、そこに触れずに生活している方が大半です。もっとたくさんの方に、山林と木材資源の重要性を認知していただき、環境面でも山を守り、木材資源を大切に使ってきちんと評価していただけるように、私たちが山から木を育て、出材することを続けていきたいです。今、出している木材は、150年ほど前に先祖たちが植えてくれた木。それを私たちの代で絶やしたらいけない。次の世代につなぐということが失われつつあるので、その先の世代へのつなぎ役として、渡していけたら良いなという想いでやっていきたいと思っています。
「新しいことに挑戦するには、勇気が必要」と横谷さんは言いますが、その奥には、自分たちが地域の山を守り続けなければいけない。そのためには変えていくことも必要だと、林業の未来を次へつなごうとする強い使命感を感じました。時代と共に変化し続けながら、人は木と共に新たな未来をつくり続ける。その挑戦が、今行われています。
Profile
企業名:西垣林業フォレスト株式会社
所在地:奈良県桜井市戒重137
電話番号:0744-46-3939
URL:https://www.nishigaki-lumber.co.jp/
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