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移住者インタビュー

2024.04.26

田舎暮らしと子育て。移住を検討している方へ先輩からメッセージ

文・写真:都甲ユウタ

さっきまで晴れていたのに、県道から外れ、山間部へと続く坂道をぐっと登ったとたんに、雪がちらつく空模様に。五條市森林組合に所属し林業に従事されている江戸 直人さんは、パートナーの朱美さんとお子さん二人の四人家族で五條市の静かな山間にあるDIYが施された平屋住宅に暮らしています。積み上げられたたくさんの薪や、傾斜地に大きく張り出した浮遊感のあるウッドデッキに、ブランコ。どれも直人さんの手作りだと感じることができる温かみがあります。都市部とは違う、自然に囲まれた暮らしについて、お話しを伺いました。

直人さん手作りのウッドデッキやブランコ。

インタビュー:江戸 直人(五條市森林組合)

林業を仕事に選んだ理由と五條市との出会い

――林業を志した(興味をもちはじめた)きっかけ、いつ頃からですか?
自分は地元が兵庫県の淡路島で、18歳の時に奈良県内の大学へ進学し歴史や考古学を学んでいました。発掘をしたかったんです。あるとき興福寺の五重塔※を見た時にすごい魅力的に感じました。こんな立派な建物を、木が支えてるんだなと。そこからこういう木を育てたり伐ったりしてみたいなという気持ちが生まれ林業に興味を持ち始めました。

※興福寺は奈良県奈良市登大路町にある法相宗の大本山の寺院。興福寺の五重塔は高さ50.937mで、奈良県内で1番高い建物。

ご自宅で使用している薪ストーブの薪は、林業の現場で余った木材を使用。

――林業をするにあたって、五條市森林組合を選ばれたのはなぜでしょうか?
当時、特にこだわりはなく林業の仕事であれば北は北海道、南は沖縄まで、どこでもいいなと思っていました。じゃあまずは土地勘のある奈良県内で探してみようと。5、6件ほど事業所へ電話をし、五條市森林組合が募集しているということで面接に行き、働かせてもらうことになりました。

五條市森林組合の事務所。

――それまでに林業の経験はあったのでしょうか?
ありませんでした。当時24歳でまだ妻(朱美さん)とも出会っておらず独身の時、事業所へいくつか電話をかけている中で、林業経験を聞かれました。「ありません」と答えると「若いけど、うーんどうやろなぁ」と返事をされる事業所もありました。しかし、五條市森林組合は今もそうですが未経験でも受け入れて育てる環境がありました。就職が決まり五條市大塔町という、現在の住まいより南の地域に住み始めました。

不意の自然災害、そして結婚を機に、より自然の近くへの移住

2008年に現在の職場である五條市森林組合に就職され、2011年には高所での作業が伴う、特殊伐採も始められました。そんな頃、8月に紀伊半島大水害が発生。奈良県南部に多くの死者・行方不明者を出し、吉野地域が誇る山林にも多大な被害がでました。

――ここ五條市西吉野町に移住することになったきっかけを教えてください。
紀伊半島大水害で、大塔町も道が断たれてしまい、組合の先輩の家に2ヶ月間ほど居候させてもらっていました。しばらくして仮設住宅ができたので、そっちに移り住んで。そのタイミングで妻と知り合う機会があって。付き合って1年半くらいかな。結婚するタイミングでこの家に引っ越してきました。

――実際にはどのような段階を経て移住に⾄るのでしょうか。⼤まかな流れを教えてください。
仮設住宅を退去する期限が決まっていたので、その期限に合わせて家探しを始めました。この辺りに住んでいた職場の先輩に空き家がないか尋ねて、2、3件紹介してもらい、探し始めてから2ヶ月くらいでこの家に決めました。家の中を見せてもらった時点で、どの辺りを直していかないといけないかというのを、大工をしている僕の父親に相談しました。いついつまでに住めるように直してほしい、という形で頼んで進めていきました。

――すぐに住めるような状態ではなかった?
トイレとかお風呂の水回りは、前の家主さんがリフォームしてくれていたおかげで綺麗な状態で残っていました。ただ、前の家主さんの必要なもの以外は、全て残っている状態で買い取ったんです。自分たちで処分してくれるならという条件だったので、全て僕らで片付けましたね。結婚をしようとなってから約半年、トントン拍子で住み始めたという印象です。周りの人に協力してもらったり、自分たちで考えたりしながらDIYや片付けなどを進めていくのもまた楽しい思い出となりました。

壁を撤去し、お子さんも走り回れる開放的な平屋。

田舎暮らしから見える家族の風景と林業に向き合う時間

やりたいことを実現するために、積極的に移住を選択した方のお話を聞く機会は多い一方、その移住者のパートナーやご家族の声はあまり耳にしません。妻の朱美さんは地元が五條市で、江戸さんとの結婚を機に五條市内から西吉野に移られました。ここからは朱美さんも交えてお話を伺いました。

※2005年に西吉野村と大塔村は五條市に編入され廃止されている。

江戸直人さん(右)と妻の朱美さん(左)。

――移住をしたことでいままでの生活とのギャップを感じることはありますか?
朱美さん 五條市内といっても私の住んでいたところも大概田舎だったので「田舎に暮らしている」という面ではそこまで変わりは感じないですね。ただ雪の多さとか買い物など、現在の住まいの方が断然不便というのはあります。

直人さん ぼくもそのギャップは感じないですね。住んでる環境に適応していこうと思っているので。

――それでも不便なことはあると思いますが、辛さはないのでしょうか?
直人さん 湿気が多いですね! 冬の時期は薪ストーブを炊くので一切結露しなくなるんですけど、逆にストーブを炊かなくなった春や梅雨の時期、秋口は家の結露がすごいんです。カビが色んなところに生えてきたりとか。4月後半から5月になるとムカデが必ず出るんですよ。毎日1匹どこかにいたり。カメムシもよく出ます。

朱美さん 10年住んでやっと慣れました。カメムシは匂いがするくらいですが、ムカデが本当に怖くって。見るだけでひゃー!となっていたけど、今はまたかっていうぐらいに慣れました。やっと。正直あまり何も考えず先入観を持たずに直人さんに着いてきたんです。結婚をし新しい住まいを探す時に、もしメリット・デメリットを考えていたらきっとデメリットばかりを考えていたでしょうね。簡単に言えば、住めば都です。

直人さん 絶対に慣れますよ。

――おやすみの⽇はどのように過ごされていますか?
朱美さん 私たちは基本遠出することが多いです。例えば釣りをしたり、都市部に行ったりします。

直人さん ただ、僕は雑踏が苦手なので、この前は僕以外の朱美と子ども達でUSJに行ってました(笑)。

朱美さん 私はテーマパークとか、割と人の多いところが疲れるけど好きなので(笑)。

直人さん 他にも子供達を映画館に連れて行ってくれてたり、僕は山を走りに(トレイル)行ったりと別行動することも多いです。

趣味のトレイル。

ご家族も応援に。

朱美さん 必ずしも家族みんなで出かけるというわけでもなく、行きたいところが同じであれば一緒に行くけど、無理に同じ行動をしなくてもいいと考えています。田舎暮らしをしているから100%田舎の暮らしをするのではなく、たまには都市部に行くなどやりたいことをやるのも田舎暮らしの秘訣だと思います。

直人さん 理想やな(笑)元々同じ価値観じゃないのでそれが面白い。暮らす中で気が付く点がいっぱいありますね。

――お子さんの暮らしや教育の面ではどのようなことを感じていますか?
朱美さん 子どもの保育園でも同級生が4人だったんです。少ないよなとは思いつつ、その分自由でのびのびと過ごしているなと感じました。ただ子どもにとっては、近くに遊ぶ相手がいないので、放課後は家に帰ってきて過ごすだけになりがちです。友達との交流が都市部に住んでいる子ほどはできないというのはちょっと心配ですね。反対に都市部だと子供の夜泣きを気にしないといけないなどデメリットもあると思うので一長一短だと思います。

自然と触れ合っているからこそ、植物の名前や特徴についても詳しい。

――家族を持つことでお仕事に対する姿勢など変化はありましたでしょうか?
直人さん より一層安全に仕事することを意識するようになりました。ひと手間を惜しまないように心がけています。例えば木を伐る際に、もう1歩踏み出したら楽な姿勢で伐れるけど、ちょっとしんどくなってきたから手だけで伐ったりと横着をすると怪我をする。体が動かなくなってしまう怪我をする場合もあるし、最悪、亡くなってしまう事故をするリスクもあるので、安全面の意識はすごくするようになりました。

――危険が多いとされている林業に対してどのようにお考えでしょうか?
朱美さん どんな仕事でも、家を出て無事に帰ってくるまでは、やはり心配です。しかし心配ばかりしていても仕方ないので、夫を信じて帰りを待っています。

直人さん ある朝、朱美と喧嘩をし仲直りせず仕事にいって、 ずっとモヤモヤしたまま作業することがあって。家に帰ってきてから、2人で懇々と話しましたね。 もしかしたら、夕方になったら僕が動かんようになって帰ってくるかもしれない。お互い一番心残りになるから、そういうことは無くしていこうと、二人で話したりしましたね。

林業から得られた確かなもの。移住なしでは実現しなかった子育て環境

――林業のやりがいや魅⼒、おもしろさを教えてください。
直人さん 自然環境を変えるような大きい変化を起こすには時間がかかるし、個人がやれる範囲は限られているかもしれませんが、やっていることに無駄なことは一切ないと思っています。その木が生きている年輪に、歴史として刻まれていることは確か。一本一本の木が、文化財だと思って作業しています。林業と一括りに言っても、本当に色んなことをするんです。なので今でも新鮮な気持ちで施業できています。飽きることがありません。

朱美さん 私は五條市で生まれ育ったけど、林業のことは本当に全く知らなかったんです。杉や、それで作られたお箸が有名っていうくらいしか知らなかった。でも去年の秋、息子の同級生の家が柿農家さんで、ちょっと手伝ってくれないかということで柿の収穫のアルバイトに行かせてもらって。その時に、初めて自然の中で働く経験をしたのですが、すごく充実感がありました。自然いっぱいの中で働くってこんな感じかと、夫がやっている林業も含め良いなと思いました。

――田舎だからこそ、林業に携わっているからこそ、得られるものがありそうですね。
直人さん そうですね。林業をしていなかったら薪ストーブは絶対に置かなかったですね。子どもたちには火の付け方を教えています。最初の着火の仕方とか。都市部では煙の問題で薪ストーブを置けないという点でも、こっちでしかできないような体験ができているかな。

薪ストーブの火も自分で付けられるように。

朱美さん 年末だったので、お寺のしめ縄作りをする村の行事のお手伝いをしたんですけど、それに参加させたり。明日もお寺を手伝いに家族で行きます。男手が必要なので(笑)。そんな田舎独特の経験ができています。家の周りは自然が自然すぎるけど、隣近所も離れているので子供達がどんなに騒ごうが歌おうがあまり気にせずに自由にできることは、ほんとに良いことだと思っています。

直人さん 子どもが生まれてすぐは夜泣きもありました。都市部にいて周りから苦情を言われストレスを感じることを考えると、今のこの環境でないとしんどいなと。ここではいくら泣いても、起きるのは僕らだけなので。

――お子さんにどのように育って欲しいでしょうか?
朱美さん なるようになってくれたら。親の手の内にいる間は私たちが責任を持って育てて、今のうちにできる経験をさせてあげられたらと思っています。

直人さん もうそれこそ日本にとどまらなくても、海外に出て行ってくれても、なんでも。自由にやりたいことをやってくれたら。そして海外に招待してくれたら旅行できていいなぁ。

移住に悩む方へのメッセージ

――田舎への移住を検討している⽅へメッセージをお願いします。
朱美さん 上手く刺さるようなことは言えません(笑)。本当にその人によるから。誰かと常に人と一緒に居たいみたいなタイプの人もいるし、私はそこまで人付き合いが好きなタイプじゃない、どっちかというと1人が好きだから田舎がいいですけど。もしお子さんがいて、子どもの為だったら、と考えているのであれば、断然おすすめします。自然の中でのびのび子育てができる環境なので。

直人さん 移り住んでみたいなと考えているなら行ってみたらいいと思うんです。
田舎暮らしを考えている時点で気持ちはかなり傾いている。動けるうちに動いたらいいと思います。とりあえず行動してみて、ダメだったらまた次を探せばいいわけですし。
移住するっていうぐらいだから、まだ年齢的には若い方が多いと思うんで、 それこそ職を選ばなければ、いろんな働き方ができると思うので、十分暮らしていけます。ぜひ五條市も選択肢の一つとしてお勧めします!


やりたいことの追求、思いがけない災害や、縁に恵まれての結婚など、誰もが遭遇する可能性のある、人生においての選択。一見すると絶対に失敗できないと思ってしまいがちな事に「移住」も含まれているかもしれません。江戸さんご夫婦は、それぞれの選択の結果である今の暮らしを、自然の流れや成り行きに逆らわず、楽しんで受け入れてこられたように感じます。家族のライフステージの変化や価値観の変化に合わせて、まずは先入観を持たずに飛び込んで行動を起こしてみるのもいかがでしょうか?その先には江戸さん家族のような魅力的な生活が待っているかもしれません。

Profile

企業名:五條市森林組合
所在地:奈良県五條市西吉野町城戸125
電話番号:0747-33-0001
URL:http://web1.kcn.jp/gojo-mori/index.html

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